グレープフルーツと薬の相性について
薬と相性が悪い飲み物はアルコールだけではありません。実は、グレープフルーツも一部の薬では相性が悪いことが知られています。
例えば、ハルシオン(トリアゾラム)。ベンゾジアゼピン系の超短時間作用型の睡眠薬です。この薬の添付文書には以下のように記載されています。
[薬剤名等] グレープフルーツジュース
[臨床症状・措置方法] 本剤の作用が増強するおそれがある。
[機序・危険因子] 本剤のバイオアベイラビリティ(服用した薬物が全身循環に到達する割合をあらわす定数)が増加する。
要するに、グレープフルーツジュースと併用すると薬が効きすぎるという話です。
Hukkinen SKらによる研究では、トリアゾラム0.25mgを250mlのグレープフルーツジュースと併用して飲むと、Cmax(最高血中濃度)が約1.3倍、AUC(血中濃度曲線下面積)が約1.5倍上昇することが判明しました。
Hukkinen SK, Varhe A, Olkkola KT, et al.: Plasma concentrations of triazolam are increased by concomitant ingestion of grapefruit juice. Clin Pharmacol Ther 58: 127〜131, 1995.
なぜ血中濃度が上昇するのか?
グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類が小腸の薬物代謝酵素であるCYP3A4を不可逆的に阻害するためです。CYP3A4は小腸や肝臓に存在し、薬物の代謝・分解を担っています。グレープフルーツがCYP3A4を阻害すると、薬物の初回通過効果(first-pass effect)が減少し、結果として薬物の吸収率が高まります。
Hanley, M. J., Cancalon, P., Widmer, W. W., & Greenblatt, D. J.: The Effect of Grapefruit Juice on Drug Metabolism and Transport. Clinical Pharmacokinetics, 50(9), 633–654, 2011.
メジコン(デキストロメトルファン)ではどうなるのか?
では、メジコン(デキストロメトルファン)ではどうなるのでしょうか。よくSNSでグレープフルーツとともにOD(オーバードーズ)する若者を見かけます。
メジコン(デキストロメトルファン)は主にCYP2D6という別の酵素によって代謝されます。そのため、グレープフルーツとの相互作用は比較的少ないとされています。大きな影響はないと考えられます。ただし、少量ながらCYP3A4も代謝に関与しているため、影響がゼロとは言えません。
結論
デキストロメトルファンの代謝は主にCYP2D6に依存しており、グレープフルーツが主に抑えるCYP3A4の影響は限定的です。そのため、グレープフルーツとの併用による効果増強は科学的に見て小さいと考えられます。
誤った情報が広がっていることが背景にあるのかもしれませんが、実際にはメジコンとグレープフルーツを併用しても効果は強くなりません。強いと感じる場合、それはプラセボ効果に過ぎない可能性が高いです。
注意点
一方で、メジコンとアルコールの組み合わせは非常に危険です。中枢神経抑制の相乗効果や呼吸抑制のリスクが高まり、最悪の場合は命に関わる事態を引き起こす可能性があります。